オリーブの世界には数多くの種類がありますが、その中でも「アスコラーナ」という品種をご存じでしょうか。世界的に見ても非常に果実が大きく、その肉厚でジューシーな果肉は「オリーブの王様」と呼びたくなるほどの存在感を持っています。
イタリア原産のこの品種は、観賞用としてはもちろん、家庭菜園で自家製の塩漬けを楽しみたい方にとっても憧れの存在です。しかし、いざ育てようと思うと、受粉の相性や管理のコツなど、知っておきたいポイントがいくつかあります。
この記事では、オリーブのアスコラーナが持つ肉厚な品種ならではの魅力や、収穫を成功させるための育て方のポイントを詳しくご紹介します。これを読めば、あなたの庭に最高の一本を迎える準備が整うはずですよ。
オリーブの品種「アスコラーナ」が肉厚で愛される理由

アスコラーナ(正式名称:アスコラーナ・テネラ)は、数あるオリーブの品種の中でも特に「果実の大きさ」と「果肉の厚さ」で知られています。その圧倒的なボリューム感は、他の品種と比較しても一目瞭然です。
まずは、なぜアスコラーナがこれほどまでに重宝され、世界中で愛されているのか、その特徴的なスペックと魅力について深掘りしていきましょう。
イタリア生まれのジャンボサイズな果実
アスコラーナは、イタリア中部のマルケ州アスコリ・ピチェーノ地方が原産の品種です。最大の特徴は何といってもそのサイズにあります。一般的なオリーブの果実が2〜3グラム程度であるのに対し、アスコラーナは8〜10グラム、大きいものでは10グラムを超えることも珍しくありません。
この大粒な果実は、遠くから見てもたわわに実っているのが分かるほどの存在感があります。見た目の華やかさから、シンボルツリーとしてお庭に植える方も非常に多い品種です。大きな実が枝に下がる様子は、収穫の喜びをより一層大きくしてくれます。
また、その大きさゆえに「ジャンボオリーブ」の一つとして数えられます。果実を収穫して加工する際にも、一粒一粒の作業効率が良く、食べ応えも抜群です。イタリアでは古くからこの大きな実を活かした食文化が根付いています。
果肉の柔らかさとフルーティーな香り
アスコラーナの「テネラ」という名前には、イタリア語で「柔らかい」という意味があります。その名の通り、果肉が非常に柔らかく、口当たりがまろやかなのが最大の特徴です。肉厚な果肉は水分をたっぷりと含んでおり、噛むとフルーティーな香りが広がります。
単に大きいだけでなく、種が小さくて果肉の割合が高い(可食部が多い)のも嬉しいポイントです。皮が薄いため、加工した際にも口の中に皮が残りにくく、とろけるような食感を楽しむことができます。これは他の硬い品種にはない、アスコラーナ独自の強みと言えるでしょう。
香りはリンゴや洋ナシを思わせるような、爽やかでフルーティーな芳香を持っています。オリーブ特有の苦味やえぐみが比較的少なく、初心者の方でも食べやすい味わいです。この香りの良さが、後述する料理への活用においても重要な役割を果たしています。
「アスコラーナ・テネラ」の希少性
アスコラーナは、世界的に見ても非常に評価の高い高級品種ですが、実は栽培には少し手間がかかるため、市場に出回る量はそれほど多くありません。特に日本国内では、苗木の流通量も限られており、見つけたらすぐに手に入れたい希少な品種の一つです。
その希少性の理由は、果実が柔らかすぎて傷つきやすく、大規模な機械収穫に向かない点にあります。一つひとつ丁寧に手摘みされることが多いため、どうしても高価になりがちです。しかし、その分だけ品質が保たれており、家庭で育てる価値は十分にあります。
自分で育てることができれば、市販ではなかなか手に入らない新鮮な完熟アスコラーナを味わうことができます。お庭で育てたアスコラーナを収穫し、食卓に並べる贅沢は、オリーブ愛好家にとっての究極の楽しみと言えるのではないでしょうか。
アスコラーナの特徴まとめ
・イタリア原産の超大粒品種(8〜10g以上)
・種が小さく果肉が極めて厚い
・肉質は柔らかく、リンゴのようなフルーティーな香り
・高級品種として扱われ、自家栽培の満足度が非常に高い
アスコラーナを自宅で育てるための特徴と環境づくり

アスコラーナは見た目が美しいだけでなく、植物としての生命力も強い品種です。しかし、その大きな実をしっかりと実らせるためには、アスコラーナが好む環境を整えてあげることが欠かせません。
ここでは、苗木選びから植え付け場所の選定まで、栽培を始める前に知っておきたいポイントを詳しく解説します。
樹形の特徴と成長スピード
アスコラーナの樹形は、やや立ち上がりやすく、それでいて枝が適度に広がる「半直立型」から「開帳型」の中間のような形になります。成長スピードは比較的早く、若木のうちからグングンと枝を伸ばすため、育てがいがあるのが魅力です。
葉はやや大きめで、丸みを帯びた形をしています。表面は濃い緑色で、裏面は銀白色に輝く美しいシルバーリーフです。風に揺れるたびにキラキラと表情を変えるため、お庭の景観を明るく彩ってくれます。剪定の仕方次第で、スタイリッシュな形に整えることも可能です。
ただし、勢いよく伸びる分だけ、放っておくと樹冠(枝葉の広がり)が混み合いやすくなります。日当たりや風通しを確保するために、定期的な手入れを前提としたスペース確保が必要です。植える場所を決める際は、将来的に大きくなることを想定しておきましょう。
寒さに強く育てやすい性質
意外かもしれませんが、アスコラーナはオリーブの中でも比較的寒さに強い品種です。寒冷地でなければ、日本各地で地植えでの栽培が可能です。マイナス7度〜10度程度の短期間の冷え込みであれば耐えることができると言われています。
この耐寒性の強さは、日本の冬を越す上で大きなアドバンテージとなります。ただし、強い霜が降りる地域や、常に冷たい風が吹きつける場所では、防寒対策が必要になる場合もあります。雪が深く積もる地域では、鉢植えにして冬場は軒下に移動させるなどの工夫をしましょう。
病気に対しても比較的強く、特に「クジャク病(葉に斑点ができる病気)」に対しては強い抵抗性を持っています。初心者の方でも、基本さえ押さえれば健康に育てやすい品種と言えます。寒さに耐えて春に芽吹く力強さは、育てていて安心感を与えてくれます。
日当たりと水はけの重要性
アスコラーナを健康に育て、大きな実を収穫するためには「日当たり」と「水はけ」が最も重要なポイントになります。オリーブ全般に言えることですが、アスコラーナは特に太陽の光を好みます。1日中日光が当たる場所が理想的です。
日光不足になると、枝が細くなってひょろひょろと伸びる「徒長(とちょう)」が起きたり、花つきが悪くなったりします。また、土壌の水はけが悪いと根腐れを起こしやすいため、地植えにする場合は少し盛り土をして高く植えるなどの工夫が有効です。
鉢植えで育てる場合は、オリーブ専用の土や、赤玉土をベースに腐葉土を混ぜた排水性の良い土を使いましょう。鉢の底に大粒の軽石を敷くことも忘れないでください。水やりは「土の表面が乾いたらたっぷりと」が基本ですが、過湿には注意が必要です。
収穫量を増やすための受粉樹選びと剪定のポイント

アスコラーナを育てる楽しみは、やはりあの肉厚な実を収穫することですよね。しかし、オリーブには「自家不結実性(じかふけつじつせい)」という性質があり、一本だけでは実がなりにくいという特徴があります。
たくさんの実を収穫するために欠かせない「受粉樹」の選び方と、大きな実を支えるための剪定・施肥について見ていきましょう。
相性の良い受粉樹の組み合わせ
アスコラーナは自分の花粉だけでは受精しにくいため、近くに別の品種を植える必要があります。これを「受粉樹」と呼びます。相性の良い品種を選ぶポイントは、アスコラーナと開花時期が重なるものを選ぶことです。
特におすすめなのは、「マンザニロ」や「ミッション」、「フラントイオ」といった品種です。これらの品種は花粉量が多く、アスコラーナとの相性も抜群です。特にマンザニロは開花時期が合いやすく、家庭菜園でのセット植えとしても人気があります。
もしお庭のスペースが限られている場合は、1本の木に2種類の品種が接ぎ木されている「2品種植え」の苗木を探すのも一つの手です。また、近所にオリーブを植えている家庭があれば、その花粉が風に乗って届くこともありますが、確実を期すなら2本以上の栽培を推奨します。
豊作にするための剪定テクニック
大きな実を実らせるためには、枝に適度な日光と風が当たるように整える「剪定(せんてい)」が欠かせません。アスコラーナは枝が伸びやすいため、放置すると内部まで光が届かなくなり、実のつきが悪くなってしまいます。
剪定の適期は、休眠期にあたる2月から3月ごろです。内側に向かって伸びている枝や、重なり合っている枝を間引くように切ります。イメージとしては「木の中心に鳥が通り抜けられるくらいの隙間」を作ることです。これにより、光合成が促進され、栄養が果実に行き渡りやすくなります。
また、オリーブは「前年に伸びた枝」に翌年実をつけます。あまり強く切り詰めすぎると、その年の収穫量が減ってしまうため、古い枝と新しい枝のバランスを見極めるのがポイントです。数年かけて少しずつ樹形を作っていく気持ちで取り組むと、毎年安定して収穫できるようになります。
肥料を与えるタイミングと種類
肉厚な実を作るには、木がエネルギー不足にならないよう適切な時期に肥料を与える必要があります。オリーブの施肥は年に3回が基本です。まずは2月〜3月の「元肥(もとごえ)」で、春の芽吹きと開花に必要な栄養を補給します。
次に、実が大きく膨らみ始める6月ごろに「追肥(ついひ)」を行います。この時期の肥料は果実の肥大に直接影響するため、リン酸分を含む肥料が効果的です。そして収穫後の10月〜11月に、1年間の疲れを癒やす「お礼肥(おれいごえ)」を与えます。
肥料はオリーブ専用の有機肥料や、化成肥料を規定量与えましょう。特にアスコラーナは実が大きいため、カリウムなどの栄養分をしっかりと吸収させることで、果肉の質が向上します。ただし、与えすぎは根を傷める原因になるため、説明書きにある量を守ることが大切です。
オリーブはアルカリ性の土壌を好みます。年に一度、春先に苦土石灰(くどせっかい)を株元にまいてあげることで、土の酸度を調整し、カルシウムを補給することができます。これが健康な葉と実を育てる隠れたコツです。
肉厚な果実を堪能する!アスコラーナのおいしい食べ方

収穫したアスコラーナをどう食べるか、これこそがこの品種を育てる最大の喜びです。その肉厚な特徴を活かした料理は、一度食べたら忘れられないほどの美味しさです。
ここでは、本場イタリアでの定番料理から、家庭で手軽に楽しめる加工方法までをご紹介します。
伝統料理「アスコラーナ風フライ」
アスコラーナの名前を一躍有名にしたのが、イタリア・マルケ州の名物料理「オリーブ・アスコラーナ(Olive all’ascolana)」です。これは、種を抜いたアスコラーナの中に、味付けしたひき肉を詰めて衣をつけて揚げた、いわば「オリーブの肉詰めフライ」です。
この料理には、アスコラーナのような「大きくて肉厚、かつ果肉が柔らかい」品種が不可欠です。他の品種では実が小さすぎたり、皮が硬かったりして、この絶妙な食感は出せません。サクッとした衣の中から、ジューシーなオリーブの果肉とお肉の旨味が溢れ出します。
おつまみとしても最高の一品ですが、手間がかかるため本場でもご馳走として扱われます。自宅で収穫した新鮮なアスコラーナで作れば、その美味しさは格別です。パーティー料理として出せば、ゲストを驚かせること間違いなしの特別なメニューになります。
新漬け(塩漬け)で味わう本来の旨味
アスコラーナのフルーティーな香りと、とろけるような食感をダイレクトに味わうなら「新漬け(塩漬け)」が一番です。収穫したばかりの新鮮な実を苛性ソーダなどで渋抜きし、塩水に漬け込むこの方法は、日本でも非常に人気があります。
アスコラーナの新漬けは、まるで果物のような爽やかさがあります。一般的な品種に比べてえぐみが少なく、塩分がまろやかに馴染むため、オリーブが苦手な人でも「これなら食べられる!」と感動するほどです。肉厚な実を一口噛むたびに、幸せな気持ちが広がります。
保存料を使わずに自分で作った新漬けは、色鮮やかなグリーンが美しく、食卓を華やかに演出してくれます。冷蔵庫で冷やしてそのまま食べるのはもちろん、サラダのトッピングやチーズと一緒に楽しむのもおすすめです。収穫時期だけの期間限定の贅沢を楽しみましょう。
オリーブオイルとしての活用法
アスコラーナは主に「テーブルオリーブ(食用実)」として利用されますが、実はオイルを絞っても非常に高品質なものが出来上がります。アスコラーナ単一(モノバライエタル)のオイルは、非常に希少で高価なものとして知られています。
そのオイルの味は、まさに果実の特徴を反映したようなフルーティーなものです。青リンゴやハーブを思わせる清涼感のある香りと、後味にわずかな辛味と苦味が残る洗練されたバランスが魅力です。加熱するよりも、パンにつけたりカルパッチョにかけたりする「生食」に向いています。
家庭でオイルを絞るのは少し大変ですが、たくさんの実が収穫できた際には、ミキサーなどで細かくして絞り出してみるのも面白いかもしれません。ほんの少量であっても、自家製アスコラーナオイルの香りは、市販品とは比較にならないほどの鮮烈な印象を与えてくれるはずです。
| 料理・活用法 | アスコラーナが向いている理由 | おすすめの食べ方 |
|---|---|---|
| 肉詰めフライ | 実が大きく、ひき肉を詰めやすい。加熱しても柔らかい。 | レモンを搾って熱々を食べる。 |
| 新漬け(塩漬け) | 肉厚でジューシー。渋みが少なくフルーティー。 | ワインやお酒のお供に。 |
| サラダの具材 | 存在感があり、他の食材に負けない旨味がある。 | フェタチーズやトマトと和える。 |
初心者が気をつけるべき病害虫と対策

アスコラーナは丈夫な品種ですが、日本で育てる場合にはいくつか注意しなければならない病害虫が存在します。これらを放置すると、せっかくの肉厚な実が収穫できなくなったり、最悪の場合は木が枯れてしまったりすることもあります。
早期発見と適切な対策を身につけて、アスコラーナを守ってあげましょう。
オリーブアナアキゾウムシへの注意
日本のオリーブ栽培において、最大の敵と言えるのが「オリーブアナアキゾウムシ」です。この虫は日本特有の害虫で、オリーブの幹に卵を産み付けます。孵化した幼虫が幹の内部を食い荒らすため、木が急に弱ったり、風でポキッと折れたりしてしまいます。
対策としては、株元を常に綺麗にしておき、成虫が隠れられる場所を作らないことが大切です。また、定期的に幹を観察し、おがくずのような粉(フン)が出ていないかチェックしましょう。もし見つけた場合は、穴の中に薬剤を注入するか、針金などで幼虫を取り除く必要があります。
アスコラーナは成長が早い分、幹も太くなりやすく、ゾウムシの標的になりやすい側面があります。4月から10月にかけての活動期には、月に一度は株元をじっくりと観察する習慣をつけましょう。早めに対処すれば、木へのダメージを最小限に抑えることができます。
炭疽病(たんそびょう)の予防策
実が大きく成長してきた時期に気をつけたいのが「炭疽病」です。これはカビの一種が原因で起こる病気で、果実に黒い斑点ができ、やがて腐って落ちてしまいます。特に雨が多い時期や、湿度が高い環境で発生しやすくなります。
アスコラーナのように果実が大きい品種は、実が密集しやすく、その隙間に湿気が溜まることで発病しやすくなる傾向があります。予防のためには、前述した剪定をしっかりと行い、樹冠内部の風通しを良くしておくことが極めて重要です。
万が一、病気にかかった実を見つけた場合は、すぐに取り除いて処分しましょう。そのままにしておくと他の実や枝に感染が広がってしまいます。冬場の石灰硫黄合剤による消毒も、翌年の発生を抑えるための有効な手段となります。
日常のメンテナンスと観察
病害虫の対策で最も効果的なのは、特別な薬剤を使うことよりも、日々の「観察」です。水やりの際や、お庭に出た時に、葉の色や枝の状態を少しだけ気にかけてみてください。葉が黄色くなっていたり、新芽がしおれていたりするのは、木からのサインです。
例えば、葉の裏に白い綿のようなものがついていたら「オリーブワタムシ」の可能性がありますし、葉がベタベタしていたら「カイガラムシ」がいるかもしれません。これらは見つけ次第、ブラシでこすり落としたり、水で洗い流したりするだけで十分に防除可能です。
アスコラーナは、愛情をかけた分だけ立派な実を返してくれる品種です。毎日少しずつコミュニケーションを取るように接することで、異変にもすぐ気づけるようになります。健康に育つアスコラーナの姿は、見ているだけでも心に癒やしを与えてくれますよ。
アスコラーナの肉厚な実を収穫するためのポイントまとめ
ここまで、オリーブのアスコラーナという品種の魅力と育て方について詳しくご紹介してきました。アスコラーナは、その圧倒的な肉厚さとジューシーな食感、そしてフルーティーな香りで、育てる人を虜にする素晴らしい品種です。
成功のためのポイントを振り返ってみましょう。まず、アスコラーナは日光と水はけの良い環境を好みます。寒さには比較的強いですが、日当たりの良い場所を選んで植えてあげることが大切です。また、確実な収穫のためには、マンザニロやフラントイオといった相性の良い受粉樹を一緒に育てるのがおすすめです。
剪定や肥料、病害虫対策といった手間は少しかかりますが、収穫した実を使って作る「アスコラーナ風フライ」や「新漬け」の味は、それまでの苦労を吹き飛ばしてくれるほど絶品です。市販のオリーブでは決して味わえない、自家栽培ならではの感動がそこにはあります。
もしあなたが、お庭に新しいオリーブを迎えようと考えているなら、ぜひアスコラーナを候補に入れてみてください。その大きな実がたわわに実る光景は、あなたのお庭をより特別な場所にしてくれるはずです。この記事が、あなたのアスコラーナ栽培の第一歩を後押しできれば幸いです。




